3人の女性アーティスト(1)
私が東京で学生生活をおくっていた頃、よくクラシックの演奏会に行きました。田舎では本当にたまにしかそういう機会はありませんでしたが、東京では有名な演奏家のコンサートが毎日のようにあり、渇きをいやすように通ったものです。
とはいえ、学生ですからそうお金があるわけではありません。幸い(?)アルコールには弱い方でしたから、そういうことにはお金を使わなかったので、少しづつ貯めて、聴きたい演奏会に通いました。
そんな中で今でも忘れられない演奏会やオペラがいくつかあります。
とりわけ3人の女性アーティストの演奏会は忘れがたいものです。
その3人とは、ヴィクトリア・デ・ロスアンヘレス、エリーザベト・シュワルツコップという2人のソプラノ歌手、そしてリリー・クラウスというピアニストです。
いずれも20世紀の名歌手、名ピアニストとして記憶される人たちですが、そういう一般的な評価ではなく、私自身、かけがえのない経験することができた人たちです。
最初のロスアンヘレス(1923-2005年)はスペイン出身で可憐な声が魅力的な私の最も愛するソプラノ歌手でした。私が聴いた時は50歳くらいだったと思いますが、声の若々しさは保たれていて、みずみずしい歌を聴かせてくれました。この人のステージはとても親近感があり心あたたまるコンサートでした。前半はシューベルトやシューマンなど、後半は母国スペインやフランスの歌曲で、最後にアンコールで歌った「さらばグラナダ」の“熱さ”は今も胸の中に蘇ってきます。
20世紀のドイツ系ソプラノとしてまちがいなく最高峰であるシュワルツコップ(1915-2006年)を2回聴くことができたことは幸せでした。最初は1972年で会場は神奈川県立音楽堂でした。ここのホールはあまり大きくなく、当時としては珍しい木質の壁でした。シュワルツコップはこのホールを非常に気に入って、日本に来ると必ずここで演奏会を開いていたのです。まるでサロンのコンサートのように目の前でこの大歌手を見ることができ、その気品ある姿と、しっとりとやわらかな響きに酔いました。(動画は東京文化会館での録音です)
2回目は1974年で引退直前の日本におけるフェアウェルコンサートでした(東京文化会館)。このときは、「ばらの騎士」第1幕のフィナーレもコンサート形式で歌い、不世出のマルシャリン(元帥夫人)を目の前で聴くことができました。休憩後の後半は一曲終わるごとにほとんど総立ち状態で、聴衆すべてがこの名ソプラノとの別れを熱い拍手で惜しんでいました。
リリー・クラウス(1903?-1986年)はモーツァルト演奏で高い評価を得ていた人で、モノラル時代のピアノソナタ全集は私の宝です。この人のモーツァルトは研ぎ澄まされた音が深い孤独を表現し、スリリングな音の運びが激しい情念を感じさせながら全体としては形式の中にきちんと納まって新鮮さを保っています。彼女自身は「モーツァルトは燃え立つ炎」と言っていたそうで、日本で好まれる“可愛い”モーツアルトではなく、ダイヤモンドのように硬質で内側から輝いてくる演奏です。
しかしこの人のコンサートで一番驚いたのは、ステージに登場したとき起こったことです。この人がステージの袖から満面の笑みをたたえながら姿を現したとたん、私は呆然としてしまいました。なんだかわからないけれど「わー、幸せ!」と思わず叫びたくなってしまったのです。まさに魔法でした。この人は当時すでに70歳ぐらいですから当然、若い女性の輝くような笑顔というのではないのです。しかし、言葉では表現できない、オーラとしか言いようのない魅力でした。
ただこの人の演奏会については私の記憶が混乱していて、ソロリサイタルを聴いたのは間違いなく、アンコールに弾いた彼女の師バルトーク(おそらくルーマニア舞曲)に驚愕したことははっきり記憶しています。しかしそれは放送されなかったので録音がありません。彼女の録音があるのはモーツァルトのピアノ協奏曲20番とアンコールの「トルコ行進曲」なのですが、私の記憶ではそれを日本フィルハーモニーのコンサートで聴いたと思うのですが、私が持っているテープではN響なのです。演目も同じなので私の記憶違いか、別の機会の録音なのかはっきりしないのですが、ピアノ協奏曲20番は彼女らしい強靭なモーツァルトです。
さて、この3人の女性が真理さんとどう結びつくのか、それは次回に続きます。
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お知らせ
NHKFMの「歌謡スクランブル」で「水色の恋」が流れます。
3月1日13時~14時
同番組で3月12~14日はリクエスト特集
(間に合わないかもしれませんが)ハガキで2月29日まで
NHK第1、FM 「ラジオ深夜便」で
「”真夜中の夢の競演”天地真理&アグネス・チャン」があります。
3月9日深夜 (10日 午前3時台)
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アーカイブ(過去記事)へ 「空いっぱいの幸せ」INDEXへ
コメントは掲載までに多少時間がかかることがあります。しばらくお待ちください。
とはいえ、学生ですからそうお金があるわけではありません。幸い(?)アルコールには弱い方でしたから、そういうことにはお金を使わなかったので、少しづつ貯めて、聴きたい演奏会に通いました。
そんな中で今でも忘れられない演奏会やオペラがいくつかあります。
とりわけ3人の女性アーティストの演奏会は忘れがたいものです。
その3人とは、ヴィクトリア・デ・ロスアンヘレス、エリーザベト・シュワルツコップという2人のソプラノ歌手、そしてリリー・クラウスというピアニストです。
いずれも20世紀の名歌手、名ピアニストとして記憶される人たちですが、そういう一般的な評価ではなく、私自身、かけがえのない経験することができた人たちです。
最初のロスアンヘレス(1923-2005年)はスペイン出身で可憐な声が魅力的な私の最も愛するソプラノ歌手でした。私が聴いた時は50歳くらいだったと思いますが、声の若々しさは保たれていて、みずみずしい歌を聴かせてくれました。この人のステージはとても親近感があり心あたたまるコンサートでした。前半はシューベルトやシューマンなど、後半は母国スペインやフランスの歌曲で、最後にアンコールで歌った「さらばグラナダ」の“熱さ”は今も胸の中に蘇ってきます。
20世紀のドイツ系ソプラノとしてまちがいなく最高峰であるシュワルツコップ(1915-2006年)を2回聴くことができたことは幸せでした。最初は1972年で会場は神奈川県立音楽堂でした。ここのホールはあまり大きくなく、当時としては珍しい木質の壁でした。シュワルツコップはこのホールを非常に気に入って、日本に来ると必ずここで演奏会を開いていたのです。まるでサロンのコンサートのように目の前でこの大歌手を見ることができ、その気品ある姿と、しっとりとやわらかな響きに酔いました。(動画は東京文化会館での録音です)
2回目は1974年で引退直前の日本におけるフェアウェルコンサートでした(東京文化会館)。このときは、「ばらの騎士」第1幕のフィナーレもコンサート形式で歌い、不世出のマルシャリン(元帥夫人)を目の前で聴くことができました。休憩後の後半は一曲終わるごとにほとんど総立ち状態で、聴衆すべてがこの名ソプラノとの別れを熱い拍手で惜しんでいました。
リリー・クラウス(1903?-1986年)はモーツァルト演奏で高い評価を得ていた人で、モノラル時代のピアノソナタ全集は私の宝です。この人のモーツァルトは研ぎ澄まされた音が深い孤独を表現し、スリリングな音の運びが激しい情念を感じさせながら全体としては形式の中にきちんと納まって新鮮さを保っています。彼女自身は「モーツァルトは燃え立つ炎」と言っていたそうで、日本で好まれる“可愛い”モーツアルトではなく、ダイヤモンドのように硬質で内側から輝いてくる演奏です。
しかしこの人のコンサートで一番驚いたのは、ステージに登場したとき起こったことです。この人がステージの袖から満面の笑みをたたえながら姿を現したとたん、私は呆然としてしまいました。なんだかわからないけれど「わー、幸せ!」と思わず叫びたくなってしまったのです。まさに魔法でした。この人は当時すでに70歳ぐらいですから当然、若い女性の輝くような笑顔というのではないのです。しかし、言葉では表現できない、オーラとしか言いようのない魅力でした。
ただこの人の演奏会については私の記憶が混乱していて、ソロリサイタルを聴いたのは間違いなく、アンコールに弾いた彼女の師バルトーク(おそらくルーマニア舞曲)に驚愕したことははっきり記憶しています。しかしそれは放送されなかったので録音がありません。彼女の録音があるのはモーツァルトのピアノ協奏曲20番とアンコールの「トルコ行進曲」なのですが、私の記憶ではそれを日本フィルハーモニーのコンサートで聴いたと思うのですが、私が持っているテープではN響なのです。演目も同じなので私の記憶違いか、別の機会の録音なのかはっきりしないのですが、ピアノ協奏曲20番は彼女らしい強靭なモーツァルトです。
さて、この3人の女性が真理さんとどう結びつくのか、それは次回に続きます。
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お知らせ
NHKFMの「歌謡スクランブル」で「水色の恋」が流れます。
3月1日13時~14時
同番組で3月12~14日はリクエスト特集
(間に合わないかもしれませんが)ハガキで2月29日まで
NHK第1、FM 「ラジオ深夜便」で
「”真夜中の夢の競演”天地真理&アグネス・チャン」があります。
3月9日深夜 (10日 午前3時台)
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