小説『マリちゃん』 (2)
この小説の筋は(1)で紹介したように、18才の阿部慶子が阿部麻里亜という芸名で歌手と同時にテレビドラマ『交番のマリちゃん』の主役としてデビューするところから始まります。レコード会社のプロデューサーは自分の愛人にフランス語を教えさせて麻理亜に知的なイメージを持たせようとします。そうしたイメージづくりや名ディレクターが演出したドラマの好評もあって、麻里亜はたちまちアイドルとして人気を博していきます。ところがそのうち麻里亜は父のようなこのディレクターに心を寄せるようになり、2人は深い関係になってしまうのです。それに気づいた麻里亜の所属プロダクション社長はディレクターに手切れ金を渡して、別れることに同意させるのですが、ディレクターはあきらめきれず麻里亜のもとに出かけてしまいます。ところが、そこから出てきたところを、麻里亜と人気男性歌手との仲を探って張り込んでいたスポーツ紙記者に見つかってしまうのです。ディレクターの知らせを受けたプロダクション社長は“女帝”といわれる大プロダクションの女性社長(これもモデルがありますね)に麻里亜の移籍を条件にその男性歌手と麻里亜を結婚させることに同意してもらい、急遽記者会見を開いて、それを発表します。これでディレクターとの関係は公にならずに済んだのですが、もともと愛があったわけではない2人の間は次第に離れていき、生まれてきた子どもがディレクターの子だと知った夫は麻里亜に暴力をふるい、ディレクターをゆすり始めます。追いつめられたディレクターはついに自殺してしまい、その捜査から夫の脅迫が明らかになり夫は逮捕されてしまいます。その直後、麻里亜は子どもを付き人もしてくれたフランス語の先生でもあった女性に託して、行方をくらましてしまいます。
それから34年、麻里亜の行方は杳として知れず、人々の記憶から消え去ってしまいます。ところが偶然かつてのファンが、ホームレスとなり変わり果てた麻里亜に気づき、自分の家に引き取って世話をしてくれ、つかの間の平安を得るのですが、そのファン(不動産業)のお得意さんからお金をだまし取って警察に逮捕されてしまいます。実は麻里亜は失踪してからも時々まとまったお金ができると子どもを預けた女性に送金をしていて、この時もそのお金を得ようとしての犯行だったのです。警察は、麻里亜の所持していたメモからこの女性に連絡を取ってきて、女性は34年ぶりに再会します。しかし麻里亜は、警察の健康診断で肺がんを患っていることが判明し、気管切開手術を受けたため声は出なくなっており、余命もほとんどない状態になっていたのです。女性が名前を名乗ると、それまで無表情だった麻里亜にわずかな変化が表れ、麻里亜の娘が立派に成人し、フランスで暮らしていることを告げると、その頬に一粒の涙が流れるのでした。女性がかつて一緒にレッスンをした聖書の一節をフランス語で語ると麻里亜もわずかに唇を動かして唱和しますが、やがて眠りに落ちていきます。
これがだいたいの筋なのですが、最後は苦い思いで終わります。この小説は何を描いたのか?帯に「成長し続ける東京の街、活力に満ちた芸能界、欲望と希望の狭間で揺れる男たちを活写」とあるように、実はこの小説は麻里亜が主人公ではなく、男たちのようです。各章のタイトルも「歌わせる男」「教える男」「書く男」・・・となっています。実際、麻里亜自身の人間像というものはあまり描かれていません。客体として描かれているだけなのですね。結局、そういう男たちによってつくりあげられたアイドルが男との関係によって転落して、過去から逃れ続ける人生を生き終える、という物語なのでしょうか。でもそうとは言えないように思えます。読み終わって心に残るのは男たちではなく、やはり凄絶な麻里亜の人生なのです。
※ やっと(2)が書けました。これが天地真理さんとどう重なる
のか? 次は最終回です。
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それから34年、麻里亜の行方は杳として知れず、人々の記憶から消え去ってしまいます。ところが偶然かつてのファンが、ホームレスとなり変わり果てた麻里亜に気づき、自分の家に引き取って世話をしてくれ、つかの間の平安を得るのですが、そのファン(不動産業)のお得意さんからお金をだまし取って警察に逮捕されてしまいます。実は麻里亜は失踪してからも時々まとまったお金ができると子どもを預けた女性に送金をしていて、この時もそのお金を得ようとしての犯行だったのです。警察は、麻里亜の所持していたメモからこの女性に連絡を取ってきて、女性は34年ぶりに再会します。しかし麻里亜は、警察の健康診断で肺がんを患っていることが判明し、気管切開手術を受けたため声は出なくなっており、余命もほとんどない状態になっていたのです。女性が名前を名乗ると、それまで無表情だった麻里亜にわずかな変化が表れ、麻里亜の娘が立派に成人し、フランスで暮らしていることを告げると、その頬に一粒の涙が流れるのでした。女性がかつて一緒にレッスンをした聖書の一節をフランス語で語ると麻里亜もわずかに唇を動かして唱和しますが、やがて眠りに落ちていきます。
これがだいたいの筋なのですが、最後は苦い思いで終わります。この小説は何を描いたのか?帯に「成長し続ける東京の街、活力に満ちた芸能界、欲望と希望の狭間で揺れる男たちを活写」とあるように、実はこの小説は麻里亜が主人公ではなく、男たちのようです。各章のタイトルも「歌わせる男」「教える男」「書く男」・・・となっています。実際、麻里亜自身の人間像というものはあまり描かれていません。客体として描かれているだけなのですね。結局、そういう男たちによってつくりあげられたアイドルが男との関係によって転落して、過去から逃れ続ける人生を生き終える、という物語なのでしょうか。でもそうとは言えないように思えます。読み終わって心に残るのは男たちではなく、やはり凄絶な麻里亜の人生なのです。
※ やっと(2)が書けました。これが天地真理さんとどう重なる
のか? 次は最終回です。
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