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「音楽の力」

2月2日の朝日新聞に坂本龍一さんのインタビュー記事が載っていました。
坂本龍一「音楽の力」は恥ずべき言葉
私はとても共感したのですが皆さんはどうでしょうか?「音楽の力ってすばらしいじゃないか、どうして恥ずべき言葉なんだろう?」と疑問に思われた方もあるでしょう。坂本さんと多少ずれるところもありますが、私の考えはこうです。
音楽は芸術の中でも感情に直接的に働きかけることができる芸術です。ですから、やろうと思えば人々の感情をコントロールすることができるのです。映画の中での音楽の使われ方を見ればよくわかる思います。そういう意味では音楽には<力>があります。坂本さんがナチスの例を挙げているのは、その<力>を手段として使うことが「恥ずべき」ことと言っておられるのだと思います。ナチスだけでなく、日本もかつて戦意高揚のために音楽を利用しましたし、戦争のような非常時に限りません。たとえばCMの音楽だって、直接的に商品名などを売り込むようなものはもちろん、一見商品と関係ないようなただ美しい音楽でも、その美しさが無意識に商品とか企業への好印象を刷り込んでいく手段となっています。そういう使われかたはいくらでもありますしすべてを否定するわけではありませんが、音楽には<力>があるからこそ、その使われかたには十分な注意が必要なのです。
しかし私が最も共感するのは「音楽の感動というのは、基本的に個人個人の誤解」「感動するかしないかは、勝手なこと」、そして音楽は「好きだからやっているだけ」というところです。つまり音楽はつくる側も受ける側もあくまで個人的行為だということです。作曲家、あるいは演奏家は自己表現として音楽を生み出すのだし、聴く人がそれにどういう印象を持つかはその人次第ということです。だから坂本さんは「音楽家が癒してやろうなんて考えたら、こんな恥ずかしいことはない」と言うのです。私も「感動させてやろう、泣かせてやろう」というような歌い方には辟易します。感動の押し売りはまっぴらです。実は私が天地真理さんのうたをこんなに長く聴き続けて飽きることがないのは、真理さんのうたがそういうこととは全く無縁だからです。『私は天地真理』コンサートの終わり近く、真理さんが「とにかく今日、私はこの歌を歌いたかったんです」と言って『告悔』を歌い始めます。あくまでも「私」が「歌いたかった」と言っていて、みなさんに「聴かせたかった」とは言っていません。真理さんのうたはその音楽それ自体から自分が感じたことを表現していて、聴き手にどんな効果を及ぼそうかという計算は皆無なのです。私が真理さんのうたに対し「芝居じみたところがない」とたびたび言及しているのはまさにこのことなのです。このことを別の言葉で触れた以前の記事もご覧ください。




※Youtubeの「夕焼横丁の人々」の動画に映画「3丁目の夕陽」と関係があるかという質問があるのですが、1976年9月の中野サンプラザ「そよ風に誘われて」コンサートのパンフレットをお持ちの方で「夕焼横丁の人々」の脚本、あるいはコンサートの構成、演出が誰になっているかお分かりでしたら教えてください。あるいは映画「3丁目の夕陽」との関連について情報をお持ちの方がおられましたら教えてください。よろしくお願いします。

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「あなた」のカバー

ひこうき雲さんこんにちは。お久しぶりです。
この記事、私も見ました。
坂本さん自身、音楽や宗教の「共感力」の怖さをよく知っておられるからこそだと思いますが、「力」「与える」といった時点で、自分が上位に立っているかのような感覚を覚えるところが、そもそも坂本さんの気質に合わない「恥ずかしい」ことなのではないかという気もします。

ところで、この話題と直接関係ないのですが、先日TBSテレビで
「歌のゴールデンヒット【100万枚以上売れた曲全部聴かせますSP】」
https://www.tbs.co.jp/utanogoldenhit/
という番組があって、
(今なら https://www.youtube.com/watch?v=wK7HXqivwIk で見れます)
200曲以上の曲を、さわりだけのものもあれば、掘り出し物の映像まで紹介するものもある、というものでした。紹介された曲はオリコン歴代セールスがもとになっていたようで、上位はおおむね
http://hit-song.jp/
の通りだったと思います。
その中のいくつかの曲では、その曲をカバーした歌手3人が紹介され、まず歌声を少し流して、誰か?を想像させた後、歌手名を紹介する、というコーナーもありました。まあこの長い番組をよくも見続けていたものだと思いますが、「なんだこれは!!」などと、驚きと憤りとあきれと飽き飽き、などが入り混じった心持ちでした。

さてここで56位のところで、小坂明子さんの「あなた」が紹介されたのですが、これをカバーした歌手3人のコーナーの筆頭で天地真理さんが紹介されました。音のみのほんの数小節でしたが。ちなみに2人目は 晃(フィンガー5)、3人目は ちあきなおみ でした。
テレビから聞こえたその場の反応の声は「あー」とか「へー」とかいうだけのものでした。
(上記サイトの 2:01:30 から。この録画での音は少しピッチが上がり気味で、変に聞こえるかもしれませんが、実際の放送時はもっと普通に聞こえました。)
(むしろこちら https://www.youtube.com/watch?v=YHqxhnRXAdA の 2:36:48 からの音の方が、異音が多いですが、その時の実際に近いように思います。

以前にも、いろいろな歌手の曲が次々と流れる中で真理さんの歌声が流れると、ちょっと異質な風情が感じられた経験があるのですが、この時も、ひときわ整った音楽的気品と、端正な中から湧き出る温かい情感のようなもの、そして理屈抜きの美しさが、並べて聴いたせいもあって、その時は尚更際立って感じられました。
ひこうき雲さんがおっしゃる「そういうこととは全く無縁」な世界が感じられたといってもよいかもしれません。

それと同時に、ここで真理さんが選ばれたことの意義はいかほどのものか、業界で多少なりとも評判になっていた証なのか、司会に堺正章がいたので、その意見が反映されでもしたのか、ひこうき雲さんのご努力が小さくも結実した結果ではないのか、ともかくも、悪い気はしないひと時でした。
とりあえずご報告まで。

Re: 「あなた」のカバー

真さん、お久しぶりです。
お読みいただいてありがとうございます。とてもうれしいです。

> 坂本さん自身、音楽や宗教の「共感力」の怖さをよく知っておられるからこそだと思いますが、「力」「与える」といった時点で、自分が上位に立っているかのような感覚を覚えるところが、そもそも坂本さんの気質に合わない「恥ずかしい」ことなのではないかという気もします。
おっしゃる通りだと思います。坂本さんの言葉はとても含蓄があって私ももう少し詳しく書きたかったのですが、書き始めたらどんどん長くなって何が主題かわからなくなってしまいました。そこで「私の考え」に絞り込んで何とかまとめました。最近は一つの主題を維持するという持続力が弱くなっています。やはりトシですね。

「歌のゴールデンヒット」については新聞のテレビ欄で(広告もあったような?)知っていましたが、「100万枚以上売れた曲」というので真理さんの出番はないと思っていましたが、カバーで出るとは予想外でした。さっそくYoutubeで見ましたが、たしかに音がよくないでので反応もあまりよくわかりません。しかし、
>ひときわ整った音楽的気品と、端正な中から湧き出る温かい情感のようなもの、そして理屈抜きの美しさ
は確かに感じられました。
考えてみれば、こういう「誰が歌っているかわからない」形は、先入観抜きに真理さんの<うた>を聴いてもらうには適していますね。その意味では多くの視聴者のいるテレビ番組で画像抜きで流れたのはむしろ良かったと思います。短すぎたのは残念ですが。
それから真理さんによるカバーは最近ラジオなどで時々聴かれているようですね。「あの素晴らしい愛をもう一度」とか「虹と雪のバラード」そして「あなた」など目にしたことがあります。残念ながら大きな流れにはまだなっていませんが、天地真理さんの<うた>のすばらしさは「知る人ぞ知る」という段階になっていて、それがこの番組で「あなた」の数多くのカバーから選ばれることにつながったのではないでしょうか。

またぜひ気軽においでください。



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