「約束のステージ」
2つ目の話題は2月22日に日本テレビ(読売テレビ)系で放送されたドラマ「約束のステージ」です。監督が佐々部清さんでした。佐々部監督は「チルソクの夏」「半落ち」「ツレがうつになりまして」「夕凪の街 桜の国」など、たくさんのすぐれた作品があり、現在日本のもっともすぐれた映画監督の一人と言っていい方です。その佐々部監督は「昭和歌謡のファン」とご自分でも言っておられ、天地真理さんにも関心をお持ちで、2012年1月に東京の古賀ミュージアムで行われた、元CBSソニープロデューサー酒井正利さんによる「Jポップの歩み」と題する連続講座に真理さんがゲスト出演されたとき、会場に出向かれ、ご自分のブログに感想を書いてくださったこともありました。今回確かめてみると、その記事は見ることができなくなっていますが、その一部を私が引用したコメント(※)が見つかりました。それによれば、「天地真理さんはたった3年ほどをピークに、芸能界の頂点を駆け抜けていった、ある意味で日本芸能史の縮図、あるいは象徴のような人」であり「そんな素材で映画を作れないか」と書かれていました。
これを読んで私は、直接的に天地真理さんをモデルにするということは考えられないとしても、佐々部監督の作風からして、真理さん(をはじめとするアイドル)が歩んできた人生の意味をあたたかく包み込んでくれる、そんな映画になるのではないかと期待に胸を膨らませました。もちろんすぐに実現するとは思いませんし、その構想が自然に熟すのを待とうという気持ちでした。ただファンの中には、真理さんへの思いの故でしょうが、少し性急で失礼なお願いがあったようで、佐々部監督がその後意欲を失ったようにも見えました。しかしブログではその後も2014年の故郷下関での「海峡映画祭」上映作品で「僕の一押し」として「虹をわたって」を紹介したり、2015年には真理さんのプレミアムボックスを買ったという報告をされたりしていました。それで私はその後も佐々部監督のツイートやブログを時々覗くようにしてきたのです。そこでこのドラマを制作中だということは前から知っていましたし、少し前からは「ひとりじゃないの」を歌う動画が宣伝用に流されてきましたので、例の構想と何らかのつながりがあるのかもしれないという思いで放映を待ちました。
見終わって、佐々部監督らしい上質の青春映画だと思いました。ここはドラマ自体を論じようという場ではありませんので、詳しいストーリーは省きますが、全編が<TVer>で3月24日まで見られるようですから、知りたい方はご覧ください。
あらすじは、2019年歌手になる夢をあきらめようとして母(石野真子)にたしなめられとび出した少女・小沢翼(土屋大鳳)が1975年にタイムスリップし、やはり歌手を目指して家出してきた少女・大空つばさ(百田夏菜子)と偶然出会い、元歌手のサポートを得て二人でテレビの「全日本歌謡選手権」に挑戦するというものです。そこで歌を歌う場面がたくさんあるわけですが、歌われるのは「誰もいない海」「太陽がくれた季節」「17歳」などいずれも当時のヒット曲ばかり。二人は順調に合格を続け6週目に歌うのが「ひとりじゃないの」です。
どうでしょうか?若い人が真理さんの歌を歌ってくれるのはとてもうれしいことですが、「ウーン?」という感じです。正直なところ、これでは当時の「全日本歌謡選手権」では合格しなかったでしょう。予選も難しいかもしれません。実は二人はこの「ひとりじゃないの」で不合格になり挫折してしまうのですが、ストーリーに合わせて不合格になるように歌っているとも思えません。「17歳」も似た感じですから。ところが面白いのは最後に歌う「幸せのセレナーデ」という曲です。どこかで聴いたような題名ですが、このドラマのオリジナルソングで作詞作曲はつんくさんです。
一度挫折した後、つばさは父が病気で倒れ家に帰らざるを得なくなります。その置手紙を見てある真実を知った翼は「全日本歌謡選手権」に今度は一人でもういちど挑戦します。そしてついに最後の10週目に歌うのがこの曲です。友、母、そして恩人のそれぞれの夢を心の中にいっぱいに感じて歌うのがこの場面です。
どうでしょうか?土屋大鳳さん、一番いいうたを聴かせてくれますね。それは一つにはこういうシチュエーションが、歌う本人にも聴く我々にも共通の感情を引き起こすということもあると思います。しかしドラマを離れて聴いてもおそらくこの曲の方が「上手い」と思うと思うのです。(その他の歌はここで聴けます) 番宣の動画を見るとつんくさん自身が指導しているところが見られますから、そのせいもあるかもしれません。しかし私はそれだけではないように思います。
こういう演歌的(歌謡曲的?)な曲は感情が込めやすいのですね。演歌は難しいとよく言われますが、それは独特の歌いまわしのためで、表現としてはむしろわかりやすいのです。この歌も”上手い”人が歌うと(私の感覚でいうと)お馴染みの芝居じみた歌になってしまうと思うのですが、土屋さんのやや幼い声と歌い方がそういう泥臭さを減じて適度の湿り気を持ったうたになっているのが良いのだと思います。しかし「ひとりじゃないの」ではまるで歯が立たなかったのです。そもそも「ひとりじゃないの」のような明るくポップな曲に表情を付けるということがすごくむずかしいのです。彼女たちだけでなく、ただ明るく楽しく歌えばいいと思っている人は多いのではないでしょうか。それだけに豊かな表情に満ちた真理さんのうたのすごさをあらためて感じたドラマでもありました。
さて、このドラマは例の構想と関係あるのでしょうか。昭和歌謡の数々はおそらく監督自身の好みも反映しているのだろうと思いますが、脚本は佐々部監督自身ではないですし、テーマは一人の少女の成長物語と言ってもいい内容だと思いますから、直接的にはつながっていないのでしょう。しかし70年代の雰囲気に、重なる部分も感じられます。これを機に、佐々部監督がかつて抱いた構想を思い出し、じっくりと醸成して形あるものにしてくださることを期待したいものです。
(※)このコメントがある記事はここです。たくさんのコメントがあり、それぞれにとても素敵な言葉があって、久しぶりに読み直し感動してしまいました。よかったらお読みください。
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コメントは掲載までに多少時間がかかることがあります。しばらくお待ちください。
これを読んで私は、直接的に天地真理さんをモデルにするということは考えられないとしても、佐々部監督の作風からして、真理さん(をはじめとするアイドル)が歩んできた人生の意味をあたたかく包み込んでくれる、そんな映画になるのではないかと期待に胸を膨らませました。もちろんすぐに実現するとは思いませんし、その構想が自然に熟すのを待とうという気持ちでした。ただファンの中には、真理さんへの思いの故でしょうが、少し性急で失礼なお願いがあったようで、佐々部監督がその後意欲を失ったようにも見えました。しかしブログではその後も2014年の故郷下関での「海峡映画祭」上映作品で「僕の一押し」として「虹をわたって」を紹介したり、2015年には真理さんのプレミアムボックスを買ったという報告をされたりしていました。それで私はその後も佐々部監督のツイートやブログを時々覗くようにしてきたのです。そこでこのドラマを制作中だということは前から知っていましたし、少し前からは「ひとりじゃないの」を歌う動画が宣伝用に流されてきましたので、例の構想と何らかのつながりがあるのかもしれないという思いで放映を待ちました。
見終わって、佐々部監督らしい上質の青春映画だと思いました。ここはドラマ自体を論じようという場ではありませんので、詳しいストーリーは省きますが、全編が<TVer>で3月24日まで見られるようですから、知りたい方はご覧ください。
あらすじは、2019年歌手になる夢をあきらめようとして母(石野真子)にたしなめられとび出した少女・小沢翼(土屋大鳳)が1975年にタイムスリップし、やはり歌手を目指して家出してきた少女・大空つばさ(百田夏菜子)と偶然出会い、元歌手のサポートを得て二人でテレビの「全日本歌謡選手権」に挑戦するというものです。そこで歌を歌う場面がたくさんあるわけですが、歌われるのは「誰もいない海」「太陽がくれた季節」「17歳」などいずれも当時のヒット曲ばかり。二人は順調に合格を続け6週目に歌うのが「ひとりじゃないの」です。
どうでしょうか?若い人が真理さんの歌を歌ってくれるのはとてもうれしいことですが、「ウーン?」という感じです。正直なところ、これでは当時の「全日本歌謡選手権」では合格しなかったでしょう。予選も難しいかもしれません。実は二人はこの「ひとりじゃないの」で不合格になり挫折してしまうのですが、ストーリーに合わせて不合格になるように歌っているとも思えません。「17歳」も似た感じですから。ところが面白いのは最後に歌う「幸せのセレナーデ」という曲です。どこかで聴いたような題名ですが、このドラマのオリジナルソングで作詞作曲はつんくさんです。
一度挫折した後、つばさは父が病気で倒れ家に帰らざるを得なくなります。その置手紙を見てある真実を知った翼は「全日本歌謡選手権」に今度は一人でもういちど挑戦します。そしてついに最後の10週目に歌うのがこの曲です。友、母、そして恩人のそれぞれの夢を心の中にいっぱいに感じて歌うのがこの場面です。
どうでしょうか?土屋大鳳さん、一番いいうたを聴かせてくれますね。それは一つにはこういうシチュエーションが、歌う本人にも聴く我々にも共通の感情を引き起こすということもあると思います。しかしドラマを離れて聴いてもおそらくこの曲の方が「上手い」と思うと思うのです。(その他の歌はここで聴けます) 番宣の動画を見るとつんくさん自身が指導しているところが見られますから、そのせいもあるかもしれません。しかし私はそれだけではないように思います。
こういう演歌的(歌謡曲的?)な曲は感情が込めやすいのですね。演歌は難しいとよく言われますが、それは独特の歌いまわしのためで、表現としてはむしろわかりやすいのです。この歌も”上手い”人が歌うと(私の感覚でいうと)お馴染みの芝居じみた歌になってしまうと思うのですが、土屋さんのやや幼い声と歌い方がそういう泥臭さを減じて適度の湿り気を持ったうたになっているのが良いのだと思います。しかし「ひとりじゃないの」ではまるで歯が立たなかったのです。そもそも「ひとりじゃないの」のような明るくポップな曲に表情を付けるということがすごくむずかしいのです。彼女たちだけでなく、ただ明るく楽しく歌えばいいと思っている人は多いのではないでしょうか。それだけに豊かな表情に満ちた真理さんのうたのすごさをあらためて感じたドラマでもありました。
さて、このドラマは例の構想と関係あるのでしょうか。昭和歌謡の数々はおそらく監督自身の好みも反映しているのだろうと思いますが、脚本は佐々部監督自身ではないですし、テーマは一人の少女の成長物語と言ってもいい内容だと思いますから、直接的にはつながっていないのでしょう。しかし70年代の雰囲気に、重なる部分も感じられます。これを機に、佐々部監督がかつて抱いた構想を思い出し、じっくりと醸成して形あるものにしてくださることを期待したいものです。
(※)このコメントがある記事はここです。たくさんのコメントがあり、それぞれにとても素敵な言葉があって、久しぶりに読み直し感動してしまいました。よかったらお読みください。
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