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「名盤ドキュメント」

8月20日、NHKBSプレミアムで<名盤ドキュメント 太田裕美「心が風邪をひいた日」木綿のハンカチーフ誕生の秘密>という番組(再放送)を見ました。私はあまりテレビを見ないのですが、たまたまネットで紹介されていたので見てみました。
内容はこちらをご覧いただくとよいと思いますが、なかなかよくできた番組だと思いました。
一番よかったのは民放などでよくある“人情もの”みたいな話でなかったことです。本来当たり前のことなのですが、歌をちゃんと音楽、作品としてアプローチしていました。この「名盤ドキュメント」という番組は(私は見なかったのですが)以前の内容を見るとそういう番組なのですね。
ただどうしても、“つくる側”からの視点で論じられているのですね。筒美京平と松本隆を軸に編曲の萩田光男、企画の立場で(真理さんの後期の作品も担当した)ディレクターの白川隆三と言った人たちがどんなふうにこの曲をつくったか、ということが主題になっていて、表現する側、つまり太田裕美さんがどう歌ったか、あるいは“聴く側”がこの歌のどういうところに何を感じ取ったのか、ということについて掘り下げられるところまではいかなかったように思います。
もちろん太田裕美さんがそれをどう歌ったかということも触れられていましたし、テレビ番組としては割とよく分析できていると思いました。また、どう聴いたかということもある程度取り上げられていました。しかし私自身はそちらの方に関心があることもあって、十分ではありませんでした。マスコミというのは送り出す側ですから、そう言う立場で考えてしまうのでしょうね。
こうしたことについてはちょうどこの曲について以前の記事でも触れました。
しかし良質の番組であったことは確かで、こんな番組を天地真理さんについてもつくってくれないかなあとうらやましくなりました。

このなかで印象的だったことがいろいろあり、ひとつひとつ触れられるといいのですが、長くなりますから今後少しづつ取り上げることにして、今回は「アルバム」について触れたいと思います。
じつはこの番組の中で、一瞬ですが天地真理さんが登場した場面がありました。セカンドアルバムのジャケットが映り、「ちいさな恋」が流れたのです。
名盤ドキュメント・アルバム

どういう場面かというと、当時の「アルバム」の性格について解説されていたところです。
白川さんによれば、「当時はシングルが優先で、シングルがオリコン何位ということが歌手にとって大事だった。そこで何人かの作詞・作曲家に依頼して数曲をつくってもらいその中からシングル曲を決めていた。そして残った候補曲でアルバムをつくった。」と言うのです。いわばアルバムは残り物であって、相互の関連の無い曲を寄せ集めたものというわけですね。ところがフォークなどのシンガーソングライターは、あるテーマによってつくるアルバム、つまりコンセプトアルバムをつくった。太田は(作詞・作曲もするが)シンガーソングライターというわけではないが「木綿のハンカチーフ」が収録された「心が風邪をひいた日」というアルバムはいわば筒美・松本によるコンセプトアルバムで画期的だった、という話の中で、旧来型の“寄せ集め”アルバムの例として真理さんのセカンドアルバムが映ったというわけです。
なぜ真理さんのアルバムが例として登場したのか?おそらく当時(正確には1972~1973年)最もアルバムが売れていた歌手は真理さんでしたから“代表”として登場したのだと思います。太田裕美さんや白川さんとの関係からしても決して悪い意味ではなく、むしろオマージュかもしれません。ただ私としてはちょっと引っかかるところもあるのです。
それはコンセプトアルバムが“寄せ集め”アルバムより価値があるかのように受け取れたことです。“寄せ集め”であろうと1曲1曲の<うた>がすぐれていればいいのです。コンセプトアルバムが価値があると考えるのは頭でっかちの思い込みだと思います。
私がクラシックを聴き始めた頃、「運命」と「未完成」のカップリングと言うのが定番でした。この組み合わせに特に意味があるわけではありません。ただ一番売れ筋だったからです。儲けのためです。だからと言って、そういう動機だからそのレコードに価値がないなどと言う人はいませんでした。価値を決めるのは演奏自体なのです。寄せ集めであろうと1曲1曲の演奏がすぐれていれば価値のあるレコードだし、構成がいかに深遠な理念によっていようと演奏がお粗末ではそのレコードに価値があるとは言えないのです。
ただ真理さんのアルバムにコンセプトがないのかと言えば、私はあると思います。白川さんが担当した「小さな人生」はコンセプトアルバムですし、「童話作家」のA面もそう言えるでしょう。またコンサートというのは当然コンセプトをもっていますから、それを収録したライブ盤もそういう性格を持つことになります。特に「私は天地真理」はどの曲を収録するかという選択を通してよりはっきりとしたコンセプトを持ったとも言えます。(参照) その他のアルバムも、たしかに一見無造作に作られているように思われますが、1枚1枚にたしかな個性があります。たとえば、番組で映っていたセカンドアルバムは青春のあこがれと幸福感が横溢する稀有のアルバムとなっていると私は思っています。しかしそれはコンセプトが優れているからではなく、真理さんの<うた>がすばらしいからなのです。

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No title

 通常、新人歌手のデビューは、あるプロの作曲家がプロデュースしており、小柳ルミ子(平尾昌晃)、南沙織(筒美京平)、辺見マリ(村井邦彦)など・・・、しかし、天地真理さんの場合、デビュー曲の作曲が、なぜか素人であり、いわば当時の芸能界の常識を崩しています。
 
 セカンドシングルこそが、天地真理という歌手としてのデビュー曲になるわけで、多くのプロの音楽家に、天地真理をイメージして、曲づくりを依頼していたのですね。

 その意味で、このセカンドアルバムは、寄せ集めというより、天地真理という歌手の幅広い可能性を聞けるすばしいアルバムです。

 最終的には、浜口庫之助、森田公一がシングル盤に採用されたけれど、白いバラの道(渋谷毅)、恋人になる前に(平尾昌晃)、青春(加藤和彦)、好きだから(森岡賢一郎)など、それぞれ完成された素晴らしい歌です・

 私は、「恋人になる前に」が好きですが、小柳ルミ子の平尾昌晃という関係ですから、天地真理のシングルには採用されなかったのでしょうか。

 森田公一は、天地真理によってメジャーになったわけで、森田公一が天地真理を育てたとは言えない。森田公一は、桜田淳子を育てたといえるが、そのため、アイドル路線に流れてしまった感があります。森田公一の曲がシングルに採用されていなければ、天地真理さんも別の人生があったようにも思います。

 ですから、相互の関連の無い曲を寄せ集めたものというマイナスのイメージではなく、あくまでも天地真理という歌手を主体としたアルバムづくりという意味で、このセカンドアルバムは。当時の歌謡界のなかでは特異なものだったとして、白川さんは紹介したのではないと思います。

Re: No title

chitaさん
お久しぶりです。いつもコメントありがとうございます。

私もセカンドアルバムは非常に魅力的なアルバムだと思います。”天地真理”のイメージがくっきりと現れたアルバムですね。chitaさんがおっしゃる通り、”天地真理”というコンセプトでつくられたアルバムと言っていいと思います。頭で考えた“コンセプト”ではないが、それよりずっと印象的なコンセプトと言えますね。

森田公一さんについては私は少し違います。私のホームページでも書きましたが、”天地真理”の魅力が全面的に開花したのは「ひとりじゃないの」で、この曲での森田さんとの出会いがなければ「天地真理しか歌えない」歌の世界は生まれなかったろうと思っています。もちろん「天地真理の魅力」と言っても人によって違いがあるでしょうから、それによって違ってくるでしょうが。

もっともこういう率直なことを書けるのもchitaさんだからですね。chitaさんとは考えが違ってもお互い率直にものが言えます。最近、世の中では忖度やら過剰同調やらが働いて、自分の考えをはっきり言わない風潮があるようですが、このブログへのコメントがなかなかないのもそんな背景なのでしょうか?何かつまらないですね。
それだけにchitaさんのコメント、本当にうれしかったです。ありがとうございました。

No title

朝日新聞 「ひとりじゃないの」が特集されるようです。ひこうき雲さん、やっと念願かないましたね。11日までと投票期間短いです。早めに投票して。それからお友達や家族にも投票呼びかけましょう。ルミ子さんの「瀬戸の花嫁」など名曲がそろってますから、ファンががんばらないと1番取れません。真理ちゃん党のみなさん、頑張りましょう。
http://enq.digital.asahi.com/beranking/enquete/VIEW_MTUwNDI0NDU1Mi41OTkz.html

Re: No title

しんりさん
お知らせいただきありがとうございました。

しんりさんも私もほぼ同時に情報を得たようで、私も掲示板への書き込みのあと自分のブログの更新を急いでいてこのコメントに気が付きませんでした。

この機会はぜひ生かしたいですね。ファンの総力を結集してほしいと思います。
ただちょっと気になるのは記者がどういう取り上げ方をするかということです。特に「その後」の真理さんにどう触れるのか?真理さんへの直接取材があるのか? いつもの内容からすれば悪意あるものにはならないと思いますが、知識不足によって間違った事実を信じていることもあり得ます・投稿する際、何かくぎを刺しておいた方がいいかもしれません。

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