天地真理さんで聴きたかったオペラアリア

天地真理さんの発声の基本は国立音高で学んだクラシックの発声法です。ただ真理さんは早稲田大学フォークソングクラブに参加するなどフォークを歌いこなしたり、ヤマハのヴォーカルスクールでマーサ三宅さんの指導を受けてジャズにも親しんだりして、独自の発声法を身に着けていきました。
ですから、クラシックの歌手が歌謡曲を歌うとどこか大仰で違和感があるのに対し、真理さんのうたが、他の歌手とは違う感覚ではあるものの、違和感なく自然に聴こえるのです。
しかし、曲によってはクラシックの素養がはっきりとわかることもあります。たとえば、ミュージカル「君よ知るや南の国」のこの曲です。



オペラの一場面かと思うようなスケールの大きなうたですね。
こういううたを聴くとオペラ好きの私などは「真理さんがオペラを歌ったら・・・」と楽しい想像をしてしまいます。
もちろん今の真理さんには難しいかもしれませんが、1970年代の真理さんなら曲を選べば歌いこなせたと思うのです。
そんな想像をする中で、私が真理さんに歌ってほしかったなあと思うのはモーツァルトの「フィガロの結婚」の中のケルビーノのアリアです。
ケルビーノというのは主人公フィガロが仕えるアルマヴィーヴァ伯爵の小姓で思春期の少年です。この役はメゾソプラノの女性歌手が少年(男性)を演じます。こういう役をオペラの世界では「ズボン役」と言いますが、「フィガロ」のケルビーノは「ばらの騎士」のオクタヴィアンとならんでズボン役の代表です。
「フィガロ」でのケルビーノのアリアは2つありますが第2幕で歌われる「恋とはどんなものかしら」は誰もが聴いたことがあるのではないでしょうか。ケルビーノはアグネス・バルツァです。



恋に憧れる少年の気持ちを実に美しく表現していますね。メロディーも親しみやすくとても魅力的なアリアですが、私が好きなのはもう一つのアリア「自分が自分でわからない」です。これは第1幕で歌われますが、恋に恋い焦がれる思春期の苦しいほどの胸の高まりを歌っていて、私がモーツァルトのオペラの中で最も好きな曲の一つでもあります。 


(声と映像は別人です。映像はフォン・シュターデ。テンポが違うのでずれがあります。)

この演奏はエーリッヒ・クライバー(カルロスのお父さん)指揮、ウィーン・フィルハーモニーによるもので、1955年、ウィーン国立歌劇場絶頂期の記念碑的録音として知られているものです。<ウィーンのモーツァルト>を極めた演奏と言ってもいいでしょう。
ケルビーノを歌っているのはシュザンヌ・ダンコです。シュザンヌ・ダンコはベルギー生まれということですからフランス文化圏で育った人ですが、声楽家としての教育はプラハで受けたようです。プラハと言えば、ウィーンでの初演が必ずしも成功と言えなかった「フィガロの結婚」が爆発的な成功を収めた地ですから、ドイツ系の音楽もしっかり身に着けているといっていい人です。
私がこの曲の歌唱としてダンコが好きなのは、何よりも生き生きとしているからです。言葉の意味にとらわれて演劇的な表現を強めると音楽が死んでしまいます。当時のウィーンスタイルは何より音楽自体の魅力を生かし、文学的な意味とぎりぎりの調和を保っていたと私は思うのですが、その最良の遺産がこのクライバーの「フィガロ」だと思います。ダンコの歌唱は(純ドイツ系でない)自身の資質とこのウィーンスタイルとが溶け合ったものなのでしょう。胸の内から衝動のように湧いてくる異性への憧れが、青春の生のよろこびとして美しくあふれ出てくるうたと言ったらよいでしょうか。それは「私は生きている」というこの歌を連想させます。



どうでしょうか?天地真理さんでこのアリアを聴きたかったという私の気持ちをご理解いただけたでしょうか。



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