君よ知るや南の国(2)

前回は天地真理さんが歌ったミュージカル「君よ知るや南の国」の同名テーマ曲とその下敷きとなったトマ作曲のオペラ「ミニヨン」の同名曲とを聴き比べました。
その際天地真理さんのうたはシングル版(「初めての涙」B面)を使ったのですが、真理さんの「君よ知るや南の国」にはほかに2つのバージョンがあります。それはアルバム「君よ知るや南の国」に収録されているものです。
このアルバムはこのミュージカルの中で真理さんが歌った曲をストーリーの展開に沿ってナレーションとセリフ、劇中音楽でつないで構成されています。つまり、日劇のステージのライブ録音ではなくスタジオで録音されたダイジェスト盤です。しかし時々ライブ録音と勘違いされている人がいるのは、実際のステージを彷彿とさせるような臨場感があるからです。このアルバムでの真理さんの歌唱は他のアルバムやシングルでは見られない特徴があります。そのことを私はホームページ「空いっぱいの幸せ」の中の「各曲寸評」で次のように書きました。
 このアルバムの彼女の「うた」は本当にすばらしい。ドラマの展開に
 ともなって歌われるだけに、表情も大きく劇的に歌っていて、普段の
 彼女のうたでは聴けない多彩な技巧が見られる。声もかなり地声を
 使っている場面もあり、さまざまな工夫が見られて彼女の才能を証明
 するアルバムとなっている

では具体的にどう違っているでしょうか。まずもう一度シングル版を聴いていただき、次にアルバムでオーヴァチュア(序曲)に続いて収録されている最初の「君よ知るや南の国」をお聴きください。

<シングル>


<アルバム1>


曲としてはほぼ同じなのに<うた>としては全然違いますね。シングルの方は前回も書きましたように幸福感に満ちた輝かしいうたです。それに対しアルバム1は翳りのあるうたです。歌われる場面は前回のオペラの場面とほぼ同じです。ここでの真理さんは、歌いすぎず抑制的でほの暗い心情を表現し、憧れが高まってもどこか儚く、遠くの光に向かって手を差し伸べるような切なさがあります。太陽の輝く南の国への憧れを歌っていますが「今は寒い北の国」なのです。このように真理さんは、それだけで完結するシングルの場合とストーリーの中のある場面で歌われる場合とをはっきり歌い分けているのです。
もうひとつ、シングルは5月21日発売ですから公演の前なのです。一方アルバムは7月1日発売ですからおそらく公演中に録音されたものと思われます。ですからシングルの方はまだ真理さんがミニヨンになりきっていなくて純粋に音楽的に表現したもの、アルバムの方は完全にミニヨンになりきって<役>としての表現になっているということも言えるでしょう。
では次にフィナーレで歌われる「君よ知るや南の国」を聴いてみましょう。

<アルバム2>


こちらも全く違いますね。まず、歌い出しが地声です。私は実際日劇でこのミュージカルを見ているのですが、40年以上たって一つ一つのうたは覚えていません。しかし、地声で歌い始めたこの曲はかなり覚えているのです。それだけインパクトがあったということですね。なぜ地声だったのか、これは聴けばわかる通りですが、身体の緊張が解けたような楽々とした印象があります。この場面は、イタリアで静養していたミニヨンが、彼女への愛に気づき後を追ってきたウィルヘルムと再会して互いの気持ちを確かめ合い、そのうえ、ミニヨンをつかず離れず見守っていた不思議な老人ロタリオが実はイタリアの貴族でミニヨンの父親だということがわかり、天にも昇るような幸せを歌うところです。真理さんの地声はまさにこの夢見るような幸福感を見事に表現しているのです。後半はウィルヘルムとの二重唱になりますが、はじめはやはり地声です。しかし、よりメリハリがついて幸福感はさらに増幅されています。「白い雲に」のあたりの美しさも印象的ですね。最後、「私は歌う」からフィナーレまでは真理さんのファルセットが全開でスケールも大きく、どんどん輝きを増してオペラのような高揚を見せて終わります。前半の陶酔から後半の高揚へ、この組み立ても見事です。

こうして聴き比べてみると、歌として完結しているシングルの場合と、ストーリーを伴うミュージカルの場合、そしてその各場面のシチュエーションの違い、そうしたことによって真理さんが実に見事に歌い分けていることがわかります。
今回この記事を書くためにオペラとミュージカルのさまざまな歌を聴き、台本も読み直す中で、トマのオペラのすばらしさが改めてわかりましたが、同時にこのミュージカルがオペラとは一味違う魅力をもったとてもよくできたミュージカルであることも再認識できました。そして何度聴き直しても新鮮な真理さんうたのすばらしさに酔うことができました。
次回はこのミュージカルのライブ版について触れたいと思います。

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おまけを一つ、Youtubeでオペラ「ミニヨン」の歌をいろいろ聴いているうちに見つけたものです。このオペラで「君よ知るや南の国」に次いで有名な「私はティタニア」です。これはウィルヘルムをめぐってミニヨンの恋のライバルともなる一座の看板女優フィリーナが劇中劇で歌う歌です。不世出の(と私が考える)コロラトゥーラ・ソプラノ、エディタ・グルベローヴァの超絶技巧をお楽しみください。




リクエスト情報
NHKFM「歌謡スクランブル」
     (月~土 13:00~14:00) 
 リクエスト特集(3月予定) リクエストは番組ホームページから。
      締め切りは2月12日(日)です。


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     ホームページ「空いっぱいの幸せ」へ

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