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聴き比べ 旅人よ

久しぶりに聴き比べシリーズです。いつもはレコード(CD) 音源の曲ですが、今回はファンの方々によるライブ録音を取り上げてみたいと思います。曲は加山雄三さんの『旅人よ』(作詞:岩谷時子、作曲:弾厚作)です。

ではまずご本家加山雄三さんです。

加山さんは作曲の才能はすぐれたものがありますが、うたは巧い人ではありませんね。表情というものがあまりありません。しかし逆に妙なクセがなく、気持ちの赴くままのびのびと歌うのが魅力となっています。特にこのシングル版は若々しさが素晴らしいですね。

カバーの最初は井上陽水さんです。

前奏からアレンジが独特ですね。私は最初、何か切羽詰まったような感じを受けたのですが、聴いていくうちにどんどん前に進んでいくような印象を作ろうとしているのかなと思えてきました。そう考えると歌詞とも合っているのかなと思いますし、うたもそういうつもりなのかもしれません。でも私には、お風呂に浸かって気持ちよく歌っているうたのようにも感じられます。

小椋佳さんも歌っていました。

ちょっと意外なうたでした。この人ならもっとデリケートで抒情的なうたになるかと思ったのですが、むしろやや陽水風ですね。若者を励ます歌だから元気に歌おうとしたのでしょうか。もちろん声はソフトですし、時に儚い表情を見せるところもありますが。

次は加山雄三さんと森山良子さんの共演です。

これはいつ頃のライブかわかりませんが加山さんも少し歳をとられましたね。声に以前の張りがありません。もちろん年齢からすればよく出ていると思いますが。そのかわり表情は以前より豊かになっています。森山良子さんは合わせるところは見事ですね。ただソロのところになるとやはり声に年齢を感じますし、どうしてこんなに大げさに歌うのかな、と思ってしまいました。やはり若い頃だったらもっとさっぱりと歌ったのではないでしょうか。

次はキャンディーズですが、このライブは1976年10月ということですから真理さんがこの曲をコンサートで歌っていた頃ですね。偶然でしょうか?あるいは渡辺プロつながりで、真理さんが歌って評判が良かったと聞いて取り入れたのでしょうか? 

ここまでおじさんやおばさん(失礼!)のうたを聴いてきてキャンディーズを聴くと、すごく幼い感じがしてしまいますね。3人で歌うと細かな表情はつけにくいですからその点は仕方ないですが、声が練れていない感じです。でも弾む楽しさは他の人にはないものですね。それにしても動画の中でスーちゃんがはつらつと歌って動いているのを見ると胸が詰まりました。

さてそれではいよいよ天地真理さんです。1976年8月の梅田コマ劇場での公演です。

いかがでしたか?唖然とするほどの名唱ですね。客席での録音ですから本来の真理さんの声と少し違う印象があるかもしれませんが、朗々とした歌い方は形がくっきりとしていて実に格調があり、ことばから自然に生まれてくる表情は心の中にしっとりと浸みこんできます。例えば冒頭「(風に震える緑の)草原」の美しさはどうでしょう。聴く者にはるかな憧れと懐かしさを引き起こし一気に酔わせてしまう見事さ! 加山雄三、井上陽水、小椋佳、森山良子といった、いわば大御所的な人たちを当時24歳の真理さんがはるかに超えてしまっていたと感じるのは私だけでしょうか。

しかし驚くのはまだ早いのです。もう一つ、梅コマ公演の約一か月後、1976年9月の中野サンプラザホールでの全国縦断ツァー「天地真理リサイタル・そよ風に誘われて」からお聴きください。

梅コマ公演からわずか一か月しか経っていないのに全く違いますね。梅コマ版はスケールが大きく歌謡的だとすれば、こちらは繊細でみずみずしい詩的な表現です。一言一言、どこをとっても漫然と流して歌うということがなく、刻々と表情が変化していきます。梅コマ版のように朗々とは歌わず、一節一節に間をおいて、感情があふれようとするところを抑えに抑えて、細やかな表現に徹しています。冒頭の「草原」も淡々としています。しかしそこに壊れてしまいそうな儚さが沁み出してきます。そしてそれはこのバージョンの基調でもあります。梅コマ版は真理さん自身の心が高揚していくことで聴く者の心を震わせていくうたですが、こちらは高揚を抑えた寡黙な歌い方であることによって真理さん自身の心の震えがそのまま音として生まれてくるようなうたになっています。
これもまた”天地真理の奇跡”の一つでしょう。

※「梅コマ 天地真理ショー」「中野サンプラザ 天地真理リサイタル」の様子は下の「アーカイブへ」をクリックして目次の 27、44・45 でお聴きいただけます。


FM軽井沢 天地真理特集 のお知らせ

FM軽井沢の『軽井沢発!太田忠の経済・金融“縦横無尽”』で天地真理特集の続編が放送されます。
放送日は次の通りです。
   6月18日(土)午後4時~5時 天地真理特集⑤
   6月25日(土)午後4時~5時 天地真理特集⑥

「さくら貝掲示板」の太田さんのメッセージを転載します
昨年に特集番組を4回放送させていただきました。各回とも柱となるトピックを立てて真理さんの曲を幅広く取り上げましたが、続編においても同じ方針で番組構成をおこないます。
今回の特別番組の内容ですが、空白の3年間のもつ意味、天地真理を支えた二人の女性、アレンジで変わる曲調聴き比べ、天地真理の編曲の最大の立役者、4拍子揃った名曲…などを予定しています。番組中で流す天地真理さんの歌の曲数は20曲程度を予定しております。
FM軽井沢はインターネットラジオにてPCやスマホで全国・全世界から視聴が可能です(詳しくはFM軽井沢のHP参照)

待ち遠しいですね。



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これこそが、ハートフル歌姫‼

ひこうき雲さんへ
お久しぶりです。こんにちは‼
今回もとても素晴らしいテーマで楽しく拝見させて頂きました。

私もこの「旅人よ」は、とても好きです。
特に、76中野ヴァージョンが好きです。
この曲の真理さんの歌唱を聴くと、天地真理という歌手が本当に繊細な感性を持った実力派の歌姫である事が感じられます。
ひこうき雲さんが仰るように、「梅コマ」「中野」と真理さんの歌は、まるで違いますが、ここに天地真理の音楽的センスが光っていると思います。

以前から感じていたのですが、どうやら真理さんは、ご自身の歌を固定化して仕上げないようです。
他の歌手で、特に歌上手の方では、固定して仕上げる方が多いのですが、真理さんはその時の伴奏に応じて、発声、声質、歌の組立を変えて歌われているようです。
梅コマの時の伴奏は、ビッグバンドとストリングスというフルオーケストラ。
それに変わって、中野の時は小編成のアンサンブル コンボ。
ですので、梅コマは「朗々且つハツラツ」の歌唱で、中野は「ウィスパー フィール」の歌唱というように、その日その時の状況に応じてフィーリングをスイッチしているようです。
ところが、真理さんはこれを無意識の内に反応しているように感じるのです。
だからこそ、尚更に敏感な感性の持ち主であると思います。

ところで、この「旅人よ」の歌い出し『かぜ〜に』の『か』から『ぜ』への音の跳躍は「短六度」であの名曲中の名曲「想いでのセレナーデ」と同じです。
で、真理さんは、この「短六度」の音程がとてもきれいに当てる歌手だと思います。
因みに、想い出のセレナーデを後にカヴァーされたお二人の女性歌手は、この「短六度」の音がとれていません。

それから、もう一つオマケの話ですが、
梅コマの時のバック バンドのリード トランペットは酷いですね。
音といい、吹き方といい、かなり下品ですよね。
びっこの仔犬の時のカップ ミュートを着けたオブリガート ソロ、あれはギャラを頂いてはいけない演奏です。
中野の時のサックスも歌を邪魔しています。
当時のよく居るパターンで、渡辺貞夫、通称ナベサダの真似をしたけど成れなかった人ですね。

真理さんには、もっと良質のバックを付けて欲しかったです。

いつも長文でスミマセン‼

Re: これこそが、ハートフル歌姫‼

mr.scanさん
コメントありがとうございます。

> どうやら真理さんは、ご自身の歌を固定化して仕上げないようです。
私もそう思います。真理さんは自分自身の状況や伴奏とか聴衆の反応などの環境に応じて違った歌い方をしていました。Youtubeでは当時の歌番組での真理さんのうたを聴くことができますが、同じ曲でも少しずつ違った歌い方をしています。公式録音でも「ひとりじゃないの」などはいくつものバージョンがありますがそれぞれ特徴あるものになっています。ですから真理さんのうたはいつも生まれたばかりの新鮮さがあったのですね。

中野版「旅人よ」をここ数日毎日聴いています。「旅人よ」は大好きな曲なのですが、こんなに素敵な「旅人よ」は初めて聴きました。
正に天地真理の真価を聴いた思いです。

Re: タイトルなし

MMM2さん
コメントありがとうございます。

中野版はおそらく作曲者加山さん自身も想像していなかった詩情あふれる表現だと思います。こういう、誰も想像しなかった表現というのが真理さんにはよくありますね。
一方、梅コマ版は<歌>としての完成度が高くて、聴いていて本当に気持ちがいい、酔わされるうたですね。私は両方ともとても好きです。

1976

 1976年はちょうど40年前ですね。
 先週、モハメドアリの追悼番組で、1976年の猪木VSアリのノーカットの試合がありました。40年ぶりに見たのですが、意外にも、だんだん見入ってしまいました。

 映像(表情)と音声がクリアで、今ライブで見ているような感じで、結果は分かっているのに、手に汗を握る試合でした。それは、意外にも、二人とも、15ラウンドまでとでも真剣に試合をしていたからです。

 当時は、二人とも、既に選手としてピークをすぎ、まともに戦わずに余りにも茶番で、世間的にも悪評の試合でした。

 40年も過ぎると、当時と今感じるものが、全く違うものになる場合があることは、天地真理さんの歌についても、そのように感じています。

 76年の梅コマや中野サンプラザについては、クリアな映像で、天地真理さんの表情を見てみたいのもです。きっとさらに再評価できると思います。

Re: 1976

chitaさん
コメントありがとうございます。

猪木VSアリの試合をご覧になったのですね。私も40年前には見ましたが、「つまらなかった」というのがその時の印象でした。したがって今回も観ませんでした。フォアマンとの試合は強い印象が残っているのですが。
でも「意外に」よかったのですね。たしかに、リアルタイムで観たときは、もちろん結果はわかっていなかったわけですし、全く予想しない展開で、直接ぶつかり合うことがほとんどなかったのでイライラが募っていました。その意味で冷静に観ていなかったかもしれませんね。今の時点で観ると結果がわかっているからこそ冷静に多角的に観ることができるのかもしれません。

>40年も過ぎると、当時と今感じるものが、全く違うものになる場合があることは、天地真理さんの歌についても、そのように感じています。
たしかにそういうところはあるかもしれませんね。あのフィーバーの中では真理さんのうたをきちんと聴きとることができなかったとしても仕方なかったのかもしれません。だから今こそ、多くの人にしっかり聴いてほしいものですね。
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