「アルゲリッチ 私こそ音楽」
先日「アルゲリッチ 私こそ音楽」という映画を見ました。アルゲリッチとは、クラシック音楽を聴く人なら誰でも知っている女性ピアニストの名です。この映画はそのアルゲリッチと家族のドキュメンタリーです。
マルタ・アルゲリッチは1941年、アルゼンチンのブエノスアイレスで生まれ、3歳で耳で覚えた曲をピアノで演奏したと言います。8歳でベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番を公開の演奏会で弾き、16歳でブゾーニ・コンクールとジュネーヴ・コンクールという著名な国際コンクールで優勝。24歳でピアノコンクールの最高峰 ショパン・コンクールで優勝し、本格的な演奏活動を始めました。この頃、アルゲリッチのほかゲルバー、バレンボイム、ポリーニなど若くすぐれたピアニストが次々と輩出して話題となっていましたが、私の記憶では、吉田秀和氏は新聞紙上で「アルゲリッチとポリーニは真に天才」と書いていました。
ともかくその後アルゲリッチは第一線で活躍を続け、現在では世界最高のピアニストの一人と認められています。
私はアルゲリッチのレコードは1枚しか持っていません。ショパンの「ピアノソナタ第2番 葬送行進曲付」と「アンダンテ・スピオナートと華麗なる大ポロネーズ」「スケルツォ第2番」です。

1枚しか持っていないということはそれほどお気に入りというわけではないということです。しかし評価しないということではありません。このレコードを買って初めて聴いたときも、先日映画を見た後改めて聴いたときも、すばらしい演奏だと思いました。このレコードの解説にも書いてありますが、アルゲリッチの演奏は自然児が現れたような感じがあります。手あかにまみれた文明の常識に染まらない、といっても奇をてらうわけでもない、本当にナイーブでみずみずしい命の祝祭と言っていいような演奏だと思います。しかも当時の彼女は写真のように神秘性も感じさせる魅力的な外観でしたから、ファンになってもよかったと思うのですが、そうはなりませんでした。彼女の演奏が、何か私が音楽に求めるものと違っていたのですね。
ですから私は彼女についてあまり聴き込むこともなく、人柄を知ることもありませんでした。この映画を見て初めて彼女の人柄を知ったのです。この映画について詳しくは公式サイトを見ていただくとよいのですが、ともかく驚きでした。
略歴に書いたような神童ぶりにも驚かされますが、余りに小さいころから”ピアニスト”であっただけに、20歳前後、自分の人生に迷ったこともあったようです。そんな時に出会った指揮者ロバート・チャンと結婚しますがすぐに離婚。その後に長女が生まれますが、彼女は長女を母に預けてショパン・コンクールに挑戦します。ところが(詳しい事情は分かりませんが)長女は養育院に預けられてしまい、それを母が”誘拐”したために彼女は親権を失ってしまいます。それ以後、長女リダとは一度も一緒に暮らしたことはないそうです。ショパン・コンクールの栄光の影にこんなことがあったとは思いもしませんでした。
その後彼女は指揮者シャルル・デュトワと2度目の結婚をし、次女アニーが生まれます。ところがそのデュトワとも離婚し、ピアニスト スティーヴン・コヴァセヴィッチと事実上の結婚をします。(この人、映画で見ると見たことのある人でしたがコヴァセヴィッチというピアニストは記憶にありませんでした。あとで調べると、当時はビショップという姓だったとあり、私の記憶とつながりました。)この映画の監督ステファニー・アルゲリッチはコヴァセヴィッチとの間に生まれた3女なのです。
アニーとステファニーは彼女と一緒に暮らしていたのですが、演奏会や練習に忙しい母に代わってアニーがステファニーの世話をしていたようです。3姉妹が初めて顔を合わせたのはリダが18歳、アニーが12歳(くらい)、ステファニーが7歳の時でした。現在、リダは母と同じ音楽家の道を歩み、ヴィオラ奏者として、しばしば母とも共演しています。アニーはアメリカで大学の教員、ステファニーは映像作家とそれぞれの道を歩んでいます。
こう紹介すると、アルゲリッチという人はどうなっているのだろう、と思われる方もいると思います。たしかに昔から彼女は奔放な人だと言われていました。しかしこの映画を見て私が感じたのは、アルゲリッチという人はその演奏と同じように自然児だということです。70歳を超えた今もまるで子供のようにナイーブなのです。子供たちとのやり取りを見てもどちらが親なのかわからないような感じがします。演奏会の場面がありますが、ステージに出ていく直前になって突然「頭が痛いから弾きたくない」などと言い出して周囲を困らせます。何とかステージに出ていくのですが、お辞儀はまるで初めて人前で演奏する少女のようなぎこちないものです。これだけのキャリアを持つ大ピアニストなのに今でも「ステージは怖い」と言うのです。ところがいったんピアノの前に座ると確信に満ちて弾ききってしまう。”芸術家”を絵にかいたような人でした。
この映画の中で列車の車窓の風景がでてきました。それまでのヨーロッパの風景と違っていて、私が「これは日本だ」と気づいた直後富士山が見え、次に新幹線の車内でリダと並んで座ったアルゲリッチが駅弁を頬ばるところがでてきました。やがてどこかについて、そこに張ってあるポスターを映したのですが、そこには「アルゲリッチ音楽祭」と書いてありました。実は1998年から「別府アルゲリッチ音楽祭」という催しが開かれていてそのポスターだったのです。
その時私に「天地真理音楽祭と名前が似ているなあ」という連想が浮かびました。そして次に、「そういえば頭文字が同じAM(あるいはMA)じゃないか」と気づいてとても愉快になったのです。
実はこれまでの記事はこの他愛もないことを書くための序論だったのです。
ところが、11月15日、翌日の「天地真理音楽祭」を控えて福岡の放送局コミュニティーラジオ天神の「団塊マガジン」という番組に出演された真保さんと荘さんの話にとても興味深いことがありました。
「天地真理さんと言う人はどういう人ですか?」と聞かれて真保さんは「普通の母とはちょっと・・・あんまり家事とかできないから・・・逆に私がサポートしてあげないと・・・ちょっと頼りない感じなんですけど、でもすごーくやさしいです。テレビに出ている母は家と全く違うので・・・全く別人というか・・・」と言っておられました。荘さんも「すごく純粋な方ですね。やはりやさしいですね。ファンの方に対する想いもとてもあついし、歌が大好きだと思いますね」と言っておられました。これを聴きながら私はあの映画で見た、大ピアニストではない「母」としてのアルゲリッチを思い出しました。
やはり頭文字だけでなく何か通じるものがあるんじゃないか、と思うのです。
※リクエスト情報
FMしばたはhttp://www.agatt769.co.jp/index.htmlから。
NHKFM「ミュージックプラザ」(月曜)12月1日は「映画の昭和歌謡」、8日は「お酒の昭和歌謡」、22日は「年末(クリスマス)リクエストスペシャル」です。他の日や特集に関係のないリクエストも可能です。
リクエストを出す時、「天地真理特集をお願いします」という要望を書き添えましょう。
FM軽井沢「天地真理ミュージックコレクション」へは天地真理オフィシャルウェブサイトの「FM放送」へ。
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マルタ・アルゲリッチは1941年、アルゼンチンのブエノスアイレスで生まれ、3歳で耳で覚えた曲をピアノで演奏したと言います。8歳でベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番を公開の演奏会で弾き、16歳でブゾーニ・コンクールとジュネーヴ・コンクールという著名な国際コンクールで優勝。24歳でピアノコンクールの最高峰 ショパン・コンクールで優勝し、本格的な演奏活動を始めました。この頃、アルゲリッチのほかゲルバー、バレンボイム、ポリーニなど若くすぐれたピアニストが次々と輩出して話題となっていましたが、私の記憶では、吉田秀和氏は新聞紙上で「アルゲリッチとポリーニは真に天才」と書いていました。
ともかくその後アルゲリッチは第一線で活躍を続け、現在では世界最高のピアニストの一人と認められています。
私はアルゲリッチのレコードは1枚しか持っていません。ショパンの「ピアノソナタ第2番 葬送行進曲付」と「アンダンテ・スピオナートと華麗なる大ポロネーズ」「スケルツォ第2番」です。

1枚しか持っていないということはそれほどお気に入りというわけではないということです。しかし評価しないということではありません。このレコードを買って初めて聴いたときも、先日映画を見た後改めて聴いたときも、すばらしい演奏だと思いました。このレコードの解説にも書いてありますが、アルゲリッチの演奏は自然児が現れたような感じがあります。手あかにまみれた文明の常識に染まらない、といっても奇をてらうわけでもない、本当にナイーブでみずみずしい命の祝祭と言っていいような演奏だと思います。しかも当時の彼女は写真のように神秘性も感じさせる魅力的な外観でしたから、ファンになってもよかったと思うのですが、そうはなりませんでした。彼女の演奏が、何か私が音楽に求めるものと違っていたのですね。
ですから私は彼女についてあまり聴き込むこともなく、人柄を知ることもありませんでした。この映画を見て初めて彼女の人柄を知ったのです。この映画について詳しくは公式サイトを見ていただくとよいのですが、ともかく驚きでした。
略歴に書いたような神童ぶりにも驚かされますが、余りに小さいころから”ピアニスト”であっただけに、20歳前後、自分の人生に迷ったこともあったようです。そんな時に出会った指揮者ロバート・チャンと結婚しますがすぐに離婚。その後に長女が生まれますが、彼女は長女を母に預けてショパン・コンクールに挑戦します。ところが(詳しい事情は分かりませんが)長女は養育院に預けられてしまい、それを母が”誘拐”したために彼女は親権を失ってしまいます。それ以後、長女リダとは一度も一緒に暮らしたことはないそうです。ショパン・コンクールの栄光の影にこんなことがあったとは思いもしませんでした。
その後彼女は指揮者シャルル・デュトワと2度目の結婚をし、次女アニーが生まれます。ところがそのデュトワとも離婚し、ピアニスト スティーヴン・コヴァセヴィッチと事実上の結婚をします。(この人、映画で見ると見たことのある人でしたがコヴァセヴィッチというピアニストは記憶にありませんでした。あとで調べると、当時はビショップという姓だったとあり、私の記憶とつながりました。)この映画の監督ステファニー・アルゲリッチはコヴァセヴィッチとの間に生まれた3女なのです。
アニーとステファニーは彼女と一緒に暮らしていたのですが、演奏会や練習に忙しい母に代わってアニーがステファニーの世話をしていたようです。3姉妹が初めて顔を合わせたのはリダが18歳、アニーが12歳(くらい)、ステファニーが7歳の時でした。現在、リダは母と同じ音楽家の道を歩み、ヴィオラ奏者として、しばしば母とも共演しています。アニーはアメリカで大学の教員、ステファニーは映像作家とそれぞれの道を歩んでいます。
こう紹介すると、アルゲリッチという人はどうなっているのだろう、と思われる方もいると思います。たしかに昔から彼女は奔放な人だと言われていました。しかしこの映画を見て私が感じたのは、アルゲリッチという人はその演奏と同じように自然児だということです。70歳を超えた今もまるで子供のようにナイーブなのです。子供たちとのやり取りを見てもどちらが親なのかわからないような感じがします。演奏会の場面がありますが、ステージに出ていく直前になって突然「頭が痛いから弾きたくない」などと言い出して周囲を困らせます。何とかステージに出ていくのですが、お辞儀はまるで初めて人前で演奏する少女のようなぎこちないものです。これだけのキャリアを持つ大ピアニストなのに今でも「ステージは怖い」と言うのです。ところがいったんピアノの前に座ると確信に満ちて弾ききってしまう。”芸術家”を絵にかいたような人でした。
この映画の中で列車の車窓の風景がでてきました。それまでのヨーロッパの風景と違っていて、私が「これは日本だ」と気づいた直後富士山が見え、次に新幹線の車内でリダと並んで座ったアルゲリッチが駅弁を頬ばるところがでてきました。やがてどこかについて、そこに張ってあるポスターを映したのですが、そこには「アルゲリッチ音楽祭」と書いてありました。実は1998年から「別府アルゲリッチ音楽祭」という催しが開かれていてそのポスターだったのです。
その時私に「天地真理音楽祭と名前が似ているなあ」という連想が浮かびました。そして次に、「そういえば頭文字が同じAM(あるいはMA)じゃないか」と気づいてとても愉快になったのです。
実はこれまでの記事はこの他愛もないことを書くための序論だったのです。
ところが、11月15日、翌日の「天地真理音楽祭」を控えて福岡の放送局コミュニティーラジオ天神の「団塊マガジン」という番組に出演された真保さんと荘さんの話にとても興味深いことがありました。
「天地真理さんと言う人はどういう人ですか?」と聞かれて真保さんは「普通の母とはちょっと・・・あんまり家事とかできないから・・・逆に私がサポートしてあげないと・・・ちょっと頼りない感じなんですけど、でもすごーくやさしいです。テレビに出ている母は家と全く違うので・・・全く別人というか・・・」と言っておられました。荘さんも「すごく純粋な方ですね。やはりやさしいですね。ファンの方に対する想いもとてもあついし、歌が大好きだと思いますね」と言っておられました。これを聴きながら私はあの映画で見た、大ピアニストではない「母」としてのアルゲリッチを思い出しました。
やはり頭文字だけでなく何か通じるものがあるんじゃないか、と思うのです。
※リクエスト情報
FMしばたはhttp://www.agatt769.co.jp/index.htmlから。
NHKFM「ミュージックプラザ」(月曜)12月1日は「映画の昭和歌謡」、8日は「お酒の昭和歌謡」、22日は「年末(クリスマス)リクエストスペシャル」です。他の日や特集に関係のないリクエストも可能です。
リクエストを出す時、「天地真理特集をお願いします」という要望を書き添えましょう。
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