「各曲寸評」の更新が滞っていますが、先日見たYoutubeで興味深い動画がありましたので久しぶりに聴き比べをしてみたいと思います。取り上げる曲は因幡晃さんの「別涙(わかれ)」です。私自身はこういう曲調の歌はすこし苦手なのですが、どうしてこれを取り上げるかというと、たまたま天地真理さんの「別涙」の動画を見ていたら、その横の関連動画にちあきなおみさんの「別涙」が出ていたのです。前に、最近は聴き比べに適当な動画が少なくなったと書いたことがありますが、天地真理さんとちあきなおみさんが同じ曲をカバーした動画というのは見たことがないので非常に興味をそそられたのです。突然事実上引退して伝説的な名歌手という評価を得ているちあきなおみさんと天地真理さんを聴き比べてみようというわけです。
ではお二人の前にオリジナルの因幡晃さんのうたからお聴きください。
歌詞からすれば女性の歌ですね。いじらしい女性の心を男性歌手が巧みに歌っていると思います。しかし、当時の感覚ではそうなのですが、現在の感覚では、やはり男性が書いた男性にとって都合のいい女性像と言われるかもしれません。しかしそれはともかく、ここでは”うた”として評価していきたいと思います。
ではちあきなおみさんと天地真理さんはこの曲をどう歌っているでしょうか。続けてお聴きください。
ちあきさんは感情を前に押し出さず抑制的で細やかな表現です。自分を抑え恋人を送り出す、そういう歌詞の意味からすればふさわしい表現かもしれません。
一方、天地真理さんはもっとストレートに感情があふれぐんぐん高揚していきます。この動画は3366Mariさんの作品ですが1979年10月行われた、3年に及ぶ休養後の復帰コンサート「明日への出発」のライブ録音です。(このコンサートの模様は3366Mariさんにいただいた音源に基づく以前の記事がありますのでご覧ください)正規録音ではないので言葉やニュアンスにやや鮮明でないところもありますが、それにもかかわらず聴く者の心に強く訴えてくる表現だと思います。
うたの評価はどうしても主観的な面があり、聴く人によって感じ方も様々ですが、私からすると、ちあきさんのうたは巧みとは思いますが心に響かない、ある意味つくりすぎているように思えます。それに対し率直に音楽の流れに感情を乗せた天地真理さんのうたは私の心を深く捉えるのです。皆さんはどう感じられましたか?
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もう一つ、久しぶりにリクエストの紹介です。
前回記事のコメントにたいきさんが紹介したくださっていますが、4月30日、KBS京都ラジオ「我ら夢の途中」で「若葉のささやき」がたいきさんをはじめ大勢の方のリクエストでかかりました。しかもたいきさんの強い希望でライブ版(オン・ステージ)がかかりました。ラジオで真理さんのライブ版がかかることはほとんどありませんが、皆さんご存じの通り、天地真理さんの真価はライブでこそ発揮されるものでしたから、多くの人に聴いてもらえたのはうれしいことでした。これもたいきさんの粘り強い努力のおかげです。ほんとうに頭が下がります。ありがとうございました。
今回は「聴き比べ」ですが、ちょっと変わった聴き比べです。
先日、あるサイトを見ていたら、次の動画がアップされていました。新3人娘より少し若い世代の人気アイドルがほとんど勢ぞろいして「ビューティフルサンデー」を歌っていました。全体を見わたすと今のAKBみたいですが、1人1人がピカピカして”集団”に埋まっていないので、壮観ですね。うたも楽しめたのですが、ふと、真理さんの「ビューティフルサンデー」が頭に浮かんできて、比較してみたくなったのです。
とりあえず、動画を見て下さい。
Youtubeで調べたらこれは1976年5月5日放送の「「ヤング歌の祭典 アイドル全員集合」という番組のようです。(放送局は不明。NHK?)
誰が出ているか、皆さんはどれだけわかりましたか?Youtubeのコメントによれば、後から登場した紫のユニフォームの人たちは〈 岡田奈々+浅野ゆう子、林寛子+片平なぎさ、山口百恵+アグネスチャン+森昌子+桜田淳子、伊藤咲子+岩崎宏美+太田裕美、キャンディーズ 〉のようです。たしかに当時第一線のアイドルたちがほぼ“全員集合”ですね。
最初に歌っていた白いユニフォームの人たちはそれに次ぐ人たちのようで、わかる人もいました。しかしこの人たちは正直なところうたは下手ですね。そこでよく見知った顔の紫の人たちが登場して歌い始めた時には「さすが」と思いました。やはり第一線の人たちは違いますね。元気はつらつで、とても楽しく聴くことができました。
そこで思い浮かべたのは真理さんの「ビューティフルサンデー」です。同じ1976年の8月、大阪の梅田コマ劇場でのショーのライブ録音です。このショーの様子は以前このブログで紹介していますが、その中でも私のお気に入りの一つが「ビューティフルサンデー」です。聴いてください。
どうでしょうか?真理さんのうたはただ元気はつらつというのではなく、内側から弾けてくるような楽しさを感じませんか。冒頭、「さわやかな日曜」の晴れやかさはどうでしょう。続く「降り注ぐ太陽」では太陽の光が降り注いでくるような感覚があります。それはくっきりとアクセントをつけていることで生まれる効果ですね。「ハ、ハ、ハ」というところもメリハリがあり、繰り返すほどにどんどん高揚していきます。
真理さんは1人で歌っているので音量的には20倍くらいのアイドルたちの方が有利なのは当然ですし、真理さんの場合には会場録音で音質が鮮明ではなく不利ですが、聴いた印象では真理さんの方がむしろ盛り上げる力があるように思えます。
もちろん、アイドルたちは一人一人がマイクを持っているわけではなく、ある意味で余興的な位置づけだと思うので、自分のショーでプログラムの中の曲として歌う真理さんと比較するのは公平でないかもしれません。
しかしこれらの動画で聴けるままを判断するなら、これだけの第一線アイドルが束になっても真理さんの躍動する楽しさには及ばないと私には思えました。皆さんはどう聴かれましたか?
※ 天地真理動画プロジェクト(仮称)の「歌手 天地真理を知っていますか」「空前のアイドルへの道」「フォーク歌手 天地真理」への意見、感想も引き続きお願いします。 アーカイブ(過去記事)へ ホームページ「空いっぱいの幸せ」へコメントは掲載までに多少時間がかかることがあります。しばらくお待ちください。
聴き比べシリーズ、今回は「あなた」です。
まずオリジナルの小坂明子さんです。
この曲は1973年の第6回ヤマハポピュラーソングコンテストでグランプリを獲得し、同年11月の第4回世界歌謡祭でもグランプリを受賞した作品です。作詞・作曲も小坂明子さんで当時16歳、大阪音楽大学付属音楽高等学校ピアノ科2年生と言うことですから、真理さんと同じように音楽の基礎をきちんと学んだ人でしょう。ただ歌い方は真理さんとはだいぶ違います。真理さんは基本はクラシックの発声法で、すべてファルセットで歌いますが、小坂さんは地声で歌い高音域になるとファルセットに切り替えて歌います。私は当時、小坂さんのうたを聴いて声が洗練されていないし、妙に引きずる歌い方で、あまり感心しませんでした。ただそれはテレビで聴いた感想で、今回しっかり聴き直してみると、それなりの良さがあることもわかりましたが、それは後で触れることにします。
ではこの曲のカバー、第1弾は岩崎宏美さんです。
これはいつ頃のものでしょうか?正直に言って声がひどいです。すべてがひどいと言うわけではなく大部分は(若い頃より)深い声でそれなりに良いのですが、「小さな家を」とか「部屋には」とかいうところでのつぶれたような声ですっかり興ざめになってしまうのです。「あなた あなた」という肝心の部分も同じで、特に後半、盛り上がっていくところで力めば力むほど声が荒くなってしまっています。妙に余裕のあるような歌い方もこの曲に合っているとは思えません。
もっと若い頃の岩崎宏美さんと小坂明子さんの共演もあります。
構えたところがなくさらっと歌っているこちらの方が私には好ましく思えます。若さと言うものは代えがたいものだとあらためて思います。特に声についてはなおさらそうですね。
次に松田聖子さんで聴いてみましょう。
松田聖子さんのチープな声や媚びた歌い方は私は好きでないのですが、ここでもはじめの方はそんな感じです。ただ後半になると感情がのってきます。最後の感極まったような様子を見ると、自分自身の私生活上の出来事からくる感情が乗り移ったのかもしれませんが、それなりに聴く者に訴えるものはありますね。ただこういう演技的な表現は(カメラワークがさらに誇張していますが)好き嫌いが分かれるところでしょうね。私自身はこれを聴いて、岩崎宏美さんの格調を見直しました。
次は八神純子さんです。
小坂さんについて「声が洗練されていない」と書きましたが、八神さんは洗練された声ですね。全体の印象としても洗練されて美しいと思います。ただ引きずるような歌い方とかは小坂さんのオリジナリティを超えていません。この動画に対して「上手い、透明感がある。 しかし全盛期のオリジナルの小坂明子にあった情感、せつなさは無いように思う」というコメントがありますが、私も似た印象です。小坂さんのところで「それなりの良さがあることがわかった」と言っているのはこのことです。
ではいよいよ天地真理さんの歌う「あなた」です。
他の人と全く違いますね。ひとりだけオリジナルから全く自由に心の赴くままに歌っているという印象です。淡々としてどこにも芝居がかったところがなく自然で、それでいて誰よりも豊かな情感に満ちています。
本編HP「空いっぱいの幸せ」に書いた寸評をそのまま引用しましょう。
<冒頭「もしも」につづく「わたしが」ですでに天地真理のあたたかくやさしいうたに心を奪われてしまう。淡々と格調高く、しかし、どこをとっても心の中に浸みこむような情感に満たされる。とりわけ、「ブルーのじゅうたん・・・」ではささやかな幸福への憧れが胸を打つ。この曲は実際は「いとしいあなたは今どこに」というように「夢」が破れた歌なのだが彼女はそのことをあまり強調することなく、憧れをそのまま最後の高揚につなげ、、大きなスケールでフィナーレを築く。繰り返し部分の「そして わたしは」の2段ロケットのような推進力の与え方にも彼女の天性のひらめきが生きている。>
最後におまけをひとつ。以前つくって紹介したことがある「3人娘共演版」です。
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<追加情報あります> あけまして おめでとうございます昨年は当ブログをご覧いただきありがとうございました。今年もよろしくお願いいたします。
「あれ?」と思った方もおられるかもしれませんが、いろいろ忙しく年末最後の更新が手間取ってしまったので新年の更新としました。ちょっと手抜きですが合併号のようなものです。
今回は聴き比べシリーズです。取り上げた曲は「夏を忘れた海」です。もちろん他の歌手との比較ではなく、天地真理さん自身のバージョン比較です。
「夏を忘れた海」のオリジナルは4枚目のアルバム「明日へのメロディー」に収録されたものですが、真理さん自身が非常に愛着をもっていて、コンサートでもしばしばプログラムに加えていました。また1979年、3年に及ぶ闘病から復帰して最初に録音されたプロモート用シングルでも採用されました。そのためこの曲には多くの録音が残されており、公式録音だけでもスタジオ録音が2種、ライブが2種あり、さらに非公式のものが今聴けるもので4種あります。今回これをすべて集めて計8種の「夏を忘れた海」を聴き比べました。それが更新が遅れたひとつの理由なのですが、それぞれに独特の個性があります。お聴きください。
では初めに1972年12月21日発売のアルバム「明日へのメロディー」に収録されたオリジナルバージョンから。安井かずみ作詞、森田公一作曲、編曲も森田公一です。
感傷的な曲ですが、大げさなところはなく、むしろ丁寧でストレートな歌い方です。しかし表情は実に豊かで声に力があり、若い生命力さえ感じさせます。まさに「知り始めた青春」のみずみずしさがありますね。
以下は時系列にしたがって紹介します。
まず、1974年4月3日 大阪フェスティバルホールでのコンサートから。
基本的には同じ歌い方ですが、1年半ほど経って相当歌い込んだ“円熟”と言ってもいい歌唱です。ライブということもあって、ある個所はよりダイナミックに、ある個所は壊れそうなほど繊細に歌っていますが、全体は調和を崩さず完成度の高いうたです。
次はテレビ番組からの録音です。1974年9月10日 NET「スタジオ23」より。
5か月後ですが、かなり違った印象を受けます。まず、声がかなり変わった印象です。以前のソフトなほんわりした声からシャープな声になったように思えます。録音条件の違いもあるかもしれませんが、それだけではないのではないでしょうか。表現も激しさ、あるいは熱さというものを感じさせて、「感傷」というより、もっと切実な思いが迫ってくるようです。
次は5日後、1974年9月15日 九段会館でのライブアルバム「天地真理オンステージ」から
ギター担当の石川鷹彦による編曲でギター1本とトライアングルというシンプルな構成です。それだけに張り詰めた緊張感の中でひとつひとつの音に繊細な表情があり、天地真理さんの<うた>の素晴らしさがくっきりと聴きとれます。ここでは感傷でも激情でもなく、きわめて詩的な表現になっていて、心にすっぽり空いた空洞のような寂寥感が広がってきます。私は、天地真理さん最高の歌唱の一つと思っています。
次は1975年4月19日 中野サンプラザホールでの「天地真理リサイタル」から
お聴きの通り歌詞が全く違います。どういうシチュエーションでこの歌が歌われたのかわかりませんが、何かストーリー的な展開の中で歌われたのかもしれません。歌詞がべたべたした感じでそのため歌自体もムード歌謡のような雰囲気になっています。しかしそれでも、天地真理さんが歌うときちんとした輪郭があり品格を保っています。
1976年4月17日 郵便貯金会館ホールでのライブアルバム「私は天地真理」から
これはおそらく真理さん自身のピアノによる弾き歌いで、ピアノの見事さも堪能できますが、その分、歌だけに集中することができなかったのではないでしょうか。「オンステージ」版に比べると繊細さに欠けやや大雑把な表現になっているように思います。しかしそのかわり声の伸びが素晴らしく、声の力を信頼して思い切り良く歌っています。「オンステージ」版が繊細な水彩画のような世界とすれば、こちらは陰影のある油絵のような世界と言っていいかもしれません。
さて次は、1979年、3年にわたる闘病からの復帰に向けて制作されたプロモート用シングルから
編曲が戸塚修に変わり、まるで別の曲のような感じがしますね。編曲だけでなく、真理さんの声も歌い方も以前とはだいぶ変わっています。声はやや細めになり生々しさが消えて洗練された感じがします。歌い方も、以前にはなかった”タメ”のような歌い崩しがところどころ見られるようになっています。表現としてもやや歌謡曲的な感じがあり、「知り始めた青春」ではなく「知ってしまった青春」のような印象があります。
最後は、1979年10月15日 ABCホールでの復帰コンサートから
やはり戸塚修編曲で基本的にプロモート版と同じ歌い方ですが、ライブであり、プログラムの進行にしたがって3年間の様々なことが去来したのでしょう、歌い進みうちに痛切な思いが高まりあふれてきます。
いかがだったでしょうか。たった数日しか違わないものもありますが、8種それぞれがすばらしいですね。更新作業を通じて、天地真理さんの表現の多彩さをあらためて知ることもできました。
<追加情報>
朝日新聞土曜版beの「もういちど流行歌」、今回は1972年2月です。テーマとなる曲は「終着駅」ですが、それとは関係なしに投票、コメントができます。天地真理さんはベスト20に「ちいさな恋」「水色の恋」2曲が入っています。会員登録してある方はこのページから入ってください。会員登録してない方は同じページから無料会員登録ができます。締め切りは1月8日、掲載は2月中旬です。
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聴き比べシリーズ、今回は「この広い野原いっぱい」です。
では早速“本家”森山良子さんでお聴きください。
作曲者でもあるわけですから、この表現がオリジナルと言うべきでしょうが、私にはもうひとつという気がします。森山さんの声質もあるのですが、もっとおおらかさ、広がりがほしいと思うのです。「ひとつのこらず」というところをはじめ、思いの込め方は見事なのですが、「赤いリボンの花束にして」というところのように、どことなく悲壮感のようなものを感じてしまって、心が解放されないのです。もちろんそれは私のこの曲へのイメージからきていることで、森山さんがもともとこういうイメージで作ったということなのでしょうが。
次はやまがたすみこさんです。
何と爽やかで清々しいのでしょう。こういうのを本来の意味で「清純」というのでしょうね。細かな表情にこだわらずに音楽の自然な流れに乗って歌っています。ただその分、滑らかすぎて引っかかるものがなく、物足りなさも感じます。
次は小柳ルミ子さんです。
小柳さんは細い声で悲壮感が出てしまう歌い方の時もありますが、これはとてもリラックスしていて余裕が感じられますね。表情も一見あまり付けていないようでいて音楽自体の起伏にうまく乗せています。これは1973年の録音で、小柳さんはその後だんだん表情が濃くなっていきますが、ここでは自然な表現になっています。
さてそれでは、天地真理さんでお聴きください。
何とやさしい声でしょうか。心が解き放たれて軽くなり、よろこびが湧き上がってくるようです。デリケートな表情は、胸の中から高まる憧れを陶酔的に表現していますが、ふと気がつくと、はかなささえ漂わせているのです。
お聴きいただいたのはアルバム「虹をわたって」収録のものですが、もうひとつ、「時間ですよ」で歌ったものもあります。
アルバム版もとてもいいのですが、これはそれを上回る名唱ですね。みずみずしくて本当にデリケートな表情が素晴らしいです。真理さんの息づかいがそのまま命ある歌になっているというように感じられます。
<リクエスト情報>ラジオ日本「タブレット純 音楽の黄金時代」(土曜17:55~20:00)
10月28日は「1971年の10月にリリースした歌、ヒットした歌」です。リクエスト、メッセージは番組HPから。
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